これからの住まいを考える

株式会社田渕建築設計事務所 代表取締役 木田耕藏

木 田 耕 藏

まず私たち自身が人間として、日本人として、いかに生きていくべきなのか?
 私たちの生きていく営みとしての生活はどうあればよいのか?
 その生活基盤としての住まいのあり方はどうあるべきなのか?
ということは、これからの住まいを考えるとき、きわめて重大な要素を持ちながら大きく関わってくるのは言うまでもなありません。
そうした意味から戦後50年、私たちが築いてきた日本人の住まいは、本当にこれでよかったのでしょうか?
まず、私たちの住まいを今一度検証し、その上で「これからの住まい」を考えていきましょう。


単に広さだけでなく、
生活観や社会性、
個性こそが、私たちの住まいづくりに求められる 

これまで戦火ででほとんど失った多くの建物においては、建築基準法の第一条にその目的として、国民の生命と健康と財産を守るためにとあります。
 しかし、私たちの住まいは昨年の阪神淡路震災に見たように、その役割を十分果たしえなかったのもたくさんありました。
 それはなぜでしょうか。工事のずさんさや専門的知識の不足、経済的理由による不良住宅等々、実に多くの問題が提起されました。
 また最近、家庭内暴力やいじめの問題が大きくクローズアップされてきているように、日本の将来を担う子供たちを育てる家庭と学校教育や社会教育にも、さまだまな精神的な問題が噴出しています。それぞれの専門家たちによって幅広い分野で議論が交わされていますが、一向に明るい出口が見えません。
 一方、人間の仕業で地球環境の破壊が猛スピードで進んでいるということもいわれ始めて久しく、科学的にもこのことはすでに証明されています。
そして、このままではあと数十年で、かけがえのない地球は人間が住むことのできないほどの環境になってしまうといわれています。
 「人間と地球、住まいと大都市、小さな生命体の一つひとつが有機的な集合体となる。だから、その一つの健康な生命体が全宇宙でさえも完全な健康体にする」と考えると、健全な日本、アジア、世界は、健全な各家庭の営みの場を提供する住まいから生まれるといっても過言ではありません。
 日本国内は戦後50年間のエコノミックアニマルのおかげで、物が満ちあふれるようにまでなり、一見平和で豊かになったかに見えます。しかし、なぜか住まいの方は欧米諸国と比較して、世界をリードしていこうとする日本人お住まいとしては、あまりにもお粗末すぎるといわれています。
 これは住宅がウサギ小屋に単に狭いというだけではありません。
 内なる家庭の崩壊もさることながら、そこに住む日本人の生活そのものに対する考え方や、社会に対する関わり方が問われているのです。しかも、権利主義ばかりで、利己種的で個性すら見えてこないという問題もしてきされます。

日本人が忘れかけている
  人と自然が共生できる住宅こそ 
 真の心のゆとりと豊かさを育む

 今、多くの日本人お心を捉えて止まない宮沢賢治やフーテンの寅さんの生き方に見るのは、日本人が持っていた心の原点がそこに感じられたのではないでしょうか。
 これから住まいを考えたようとするとき、今なぜフーテンノ寅さんなのか?
 という問いにぶつかります。家族を捨て、旅に出かけなければ寅さんのようように優しい人間にはなれないでしょうか。
 寅さんを取り巻く家族や仲間には極ありふれた日本人の原風景を見ることができます。
 それは、あの団子屋の狭い寅屋に集まる人々の温かい日常の営みの中に、その町に住む人々の優しさがあるれているからでしょう。
  欧米の住まいは、厳しい自然から守られるために、シェルターとしての役割を果たしてきましたが、一方では人と自然を断絶させ、隔離してきました。けれど欧米人はその自覚のもとで、失われた自然や人間としての感性を育むための努力や工夫も怠りませんでした。
日本人においても、もともと江戸時代の長屋によくあった縁側や、障子などから庭園等を通して、そこから見る外の風景などは、人と自然とを繋いで一体化する役割を果たしてきました。
自然と共生しようとする日本人の感性は、縁側に置かれた小さな盆栽などにも見ることができます。
 近代の文化住宅や高層マンションは、経済至上主義を優先して、日本人の心の象徴である緑の小さな庭や縁側、障子はもとより、床の間や大黒柱柱などを省き、一家の中心さえ失ってしまいました。
 しかも、家庭には今や親父の居場所さえありません。偏差値教育による画一的な受験戦争に親たちはただオロオロしながら、個室を与えてきたことによって、子供を自由にさせているかのように見せて、実は縛り付けてきたのです。落ちこぼれやいじめなどと、さまざまな問題が噴出し出してきたことによって、ようやく親たちもたちまちそのことに気づき始めました。
 環境から単に遮断、隔離されたバリアー的要素のみでなく、もっと自然環境を取り入れ、人と自然が共生できるバランスの取れた住宅こそが、本当の意味で心のゆとりや豊かさを育む住まいづくりであるといえるのではないでしょうか。だから、私たちは自然環境の変化をそこに住む人々が敏感に感じられる、人に優しい住宅を提案しなければならないと考えています。その環境共生建築の住まいづくりとは、
@環境の恩恵をよく享受する住まいづくり
A環境への負担は極力減らす住まいづくり
B環境に馴染む生活様式(ライフスタイル)
の3つが実践された住まいをいいます。

環境共生建築の
  住まいづくりを実現するためには
 技術革新と私たちの意識革命が必要です

 これらを解決・実践する技術や建築はまだまだ完全とはいえません。しかし、その実現に向かって第一歩を踏み出すことこそが重要なことで、私たちの務めといえます。つまり、より一層良好な状態で地球環境を維持するためには、住まいづくりに関わる私たち一人ひとりがより積極的に、さらに将来にわたって総合的かつ持続的な努力が必要だということです。
 そして、経済優先、

コスト優先の社会風潮の中にあっても、よりよい環境共生住まいづくりを提言し続けていくための技術を磨きながら、そうした取り組みを限りなく発展させていなければならないでしょう。
 すでに前に述べた3つの提言をクリアするために、さまだまな試みが続けられていますが、現在の主な技術的レベルは、まだまだ未熟な段階といえます。
そん中でも、実用レベルにまで研究・開発が進んできているものも数多くあります。それを少し見てみることにしましょう。

環境の恩恵を
よく享受する住まいづくり
「環境負荷の低減」

 代表的なものとして、二酸化炭素排出抑制、省資源、省エネルギー廃棄ぶつ、排出物抑制、自然環境保護などがあげられます。
 大気汚染につながるに酸化炭素排出抑制については、二酸化炭素を吸収固定化する技術の実用化が図られていますが、現状ではまだ、その技術は対応が不十分で模索の段階です。
 オゾン層破壊の原因とされているフロンガスについても、フロンレスエアコンの技術開発などが進められています。
 また、ガラス、鉄、銅、アルミなどの炭素排出量の大きい材料は勿論、コンクリート、鉄の使用も控えることが今後、要求されてくるでしょう。
 省資源、省エネルギーについてはまず、建築設備面において、その技術的対応が強く求められています。 

そして、今後より効率を高めていく必要があります。その一つとして、太陽熱、太陽光などのソーラーや風力、水力や雨水などを利用した設備開発へのニーズは年々強まっています。しかしも、コスト面についても尚一層の検討が望まれるところです。
 例えば、伝統的な建築物の知恵を現在に生かし、自然との親和感を高め、光、風、水、緑などといった自然的要素の有好的な活用を図ることは、人間の情操教育上極めて重要な効果をもたらします。また、私自身そう確信しています。
廃棄物排出抑制については、収集、運搬、処理及び再資源化できるような管理システム構築しながら、価値観の意識の変化を持たせていく必要があります。さらに、建築廃材の資源の再生、再利用を図ることによって、環境に馴染む建築物の実現が可能か否かを検討し、有効利用が可能な材料の開発を進めていくことが大切です。
 自然環境保護については、型枠材などに大量に利用してきたラワンベニヤなどの熱帯木材の使用を控え、金属材料等に変えたり、工業化講法を導入するなどの工夫が求められます。また、大規模木造建築、講法などによる木造の再考と規制緩和など、企画設計段階において、自然環境の保全と活用に積極的な取り組みが望まれています。

環境への負担は
極力減らす住まいづくり
「建築物の有効活用」

 耐久性の高い部材で、耐用性の長い建築を実現することが求められています。時代の社会情勢や機能の変化など、さまだまな理由から、木造、鉄骨造で25年、 RC造でも30年程度のうちに建て替えを余儀なくされているのが現状です。 物理的寿命の長い建築躯体の開発とともに時代の変化、すなわち社会的寿命に対応して、内部機能を更新できるような対策が必要になってきています。
 例えば、新婚時代、育児時代、親子3世代時代などにも対応できるよう考慮しておくということです。

環境に馴染む生活様式
「ライフスタイルの再考」

 経済大国になって、経済的余裕やなお満たされない心理的な面から、より便利で気持ちがよく、肉体的にも精神的にも豊かな「快適性」が強く求められています。
 しかし一方、「快適性」の要素の増大は資源エネルギーの大量消費、そして環境負担の増大に密接に関連するもので、地球環境に対し悪影響を及ぼすおそれがあります。
 だから、これら高度化したニーズに対応しながら、しかも、地球環境に貢献するという一見矛盾した困難な問題に取り組まなければならないのです。
 そこで、如何なる快適性が重要であり、どのような利便性をカットできるかの判断、つまり快適性、利便性の序列を明確にし、その取捨選択を決断しなければなりません。しかし、快適環境追求の無限の繰り返しでは、エネルギー多消費型ライフスタイルから抜け出すことは不可能です。ライフスタイルを考え直し、過度の利便性を追求しない、環境と共生する住まい方を実践する姿勢が要請され、それを可能にする技術の進歩と対応が期待されています。

急速に進む高齢化
バリアフリー住宅は
身近なテーマとしてとらえたい

 私たち一人ひとりが暮らす住まいづくりそのものが私たちの健康な人生や、健全な家族との

営みをつくりあげていき、そして同時に、そのことがよりよい街づくりに貢献し、明日の日本の国づくりへと発展していくことになるのである。
 今、日本が猛烈スピードで突き進んでいる高齢化社会に向け、人に優しい住まいづくりとしてバリフリー住宅が注目されています。その技術的基準を財団法人和歌山県いきいき長寿社会センター発行の「長寿社会建築物設計指針」から抜粋しました。

■寝室
 寝室は、生活の中心となる部屋だけに、安全性、快適性の確保と設備面でも多様な対応ができるよう配慮しておきたい。
○一階部分(各住戸の玄関と同一フロア)に設ける。
○玄関から他室を通らずに直接入れるようにする。
○部屋全体の日当たり、風通し、換気、窓の眺望を良くする。
○多目的に使える空間(床の間、収納スペースなど)を確保しておく。
○収納部を多く取り、ラクに利用できるようにする。(天窓などの高いところの収納は避ける)
○非常時には、水平方向(庭、バルコニーなど)に避難できるようにしておく。
○多目的な配管(電話、通報、安全設備など)をしておく。
○部屋間の温度差はなるべく少なくする。また部屋内の熱分布が均等になるように、床暖房等を利用することが望ましい。
○電灯などのスイッチは、使いやすい高さ、位置に設ける。
○部屋全体の色調、雰囲気は、親しみやすく、明るい落ち着いた色調でまとめる。
○枕元近くには、物を置けるスペースと、万一に備えての非常用ブザーやインターホンを設置しておく。
■台所 台所は、作業場の中心となるところなので楽な姿勢で安全にに作業ができるよう、次のような点に配慮して下さい。
○お年寄りの身体寸法に応じた作業台や収納の高さにする。
○収納スペースは利用しやすいように設計する。(頭より下の開戸は危険である)
○安全に作業できるスペースの確保と、調理台、流し台のレイアウトにすることがのどましい。(コンロ台の位置は出入口の近くは避け、両側に作業面を設ける)(同居の場合は、2世帯の生活習慣の差を考慮し、台所を2カ所設けることがのど間しい)
○安全な調理用コンロ(電磁式コンロなど)、給湯設備などを活用できるようにする。
○水栓器具は操作しやすいものにする。
○ガス漏れ警報器、消化器などを設置する。
■浴室
 浴室は、店頭、漏水などによる事故の多いところなので、衛生的であると同時に安全面でも十分配慮しておきたい。
○浴槽は立ち上がり低くするため、埋め込み型が望ましい。
○床は石鹸水で濡れても滑りにくい材質にする。(浴槽、浴室用滑り止めマットなどを使用する)
○突起、段差、出隅など、つまずくおそれのあるものは避ける。
○介護者が入ることのできるスペースを確保する。(浴槽の2方を空けると介護しやすい)
○将来、適切なところに手すりを設置できるようにパッキングしておく。
○出入り口は、引き戸または外開き戸にする。(有効幅はCM以上)(万一転倒した時を考えて、ガラス戸はなるべく避けるか、または、衝撃に強い樹脂ガラスか強化ガラスなどにする)
○水栓器具、シャワーの温度調節などは操作しやすいものにする。
○非常用ブザーを設ける。
○浴槽の縁とそこを滑りにくくする。(滑り止めテープなど)
○浴室ないには浴室用熱交換型換気扇を設ける。

■便所
 トイレは、使う頻度が高いので衛生性、快適性の確保とともに利用しやすいよう、次のような点について配慮しておきたい。
○寝室の近くに設ける。
○トイレと洗面所を1室にするなど、利用しやすい空間の確保が望ましい。
○夜間に水洗を使っても音が他の家族の邪魔にならないよう工夫をしておく。(防音装置など)
○腰掛け式(様式)とする。(温水洗浄装置付きタイプが望ましい)(男子小便器はストールがたが望ましい)
○便器の横にてすり、立ち上がり棒を設ける。
○水洗用レバー、バブルは操作しやすいものにする。
○保温便座・パネルヒーターなどのための暖房用コンセントを設ける。
○床は、水に濡れても滑りにくく、掃除のしやすいものにする。
○万一倒れたときのことを考えて、ドアは引き戸または外開きとし、外から解除できるものにする。
○非常用ブザーを設ける。
○寝室から便所までの夜間照明設備を設ける。
○排気扇と連動させた証明スイッチにすると便利。
○十分な広さを確保する。
■居間
 居間は、くつろぎの場なので、快適性とともにゆとりのある空間の確保などに、配慮したい。
○ゆとりのあるスペースにする。
○立ったり座ったりする場所など適切なところに手すりを設置する。
○日用品を収納する棚、手は届く範囲に設ける。
○テレビなどの娯楽設備は操作しやすい位置と高さにする。(リモコン装置の付いたものも便利である)
○スイッチ、コンセントなどは、操作しやすい位置と高さに設ける。
■屋外
○1階の縁側やバルコニーから、安全に庭へでられるように手すりなど設置するのが望ましい。
○気軽に土いじりができるような花壇、菜園、プランターボックスなどを設置するのが望ましい。
○近所の人と自然に交流できるように、ベンチや縁側、木陰などを設けることも考えられる。
○できれば、駐車(停車)スペースを設け、車利用が容易な作りとする。
■階段
 転倒事故の多いところであり、特に安全性を考えた配慮をしておく。
○急勾配は避ける。
○一番上及び一番下の段は廊下にくい込まないようにする。
○回り階段、らせん階段は危険であるので避ける。
○蹴込み板のない階段は避ける。
○段鼻は、著しく突き出さない
○連続する手すりを避ける
○踏面は、滑りにくい仕上げにする。
○証明は昇降位置のいずれからでも点滅できるようにする。(3路スイッチなど)
○階段の上下に足下灯を設けるのが望ましい。

高度化しただけに迷わされずに
人間の本質を大切にすることが
「これからの住まいづくり」では重要

また、ハイテク情報社会の到来は、在宅勤務を可能にし、ますます住まい方を多様化させています。それに伴い、住まいの役割は重要さが増すとともに、一人の生活に与える影響も大きくなってきています。
 例えば、ホームセキュリティが完全にととのうと、遠く離れて洗濯機や炊飯器、エアコンなどのコントロールはもちろん、花樹や犬、猫などのメンテをフォローすることさえできるようになります。

 さらにホームヘルス管理は、朝、便器に座ることによって体温、血圧、脈拍などがはかれるので、健康管理のための基礎データの蓄積と分析が容易になり、その人に応じたホームドクター的役割を果たしてくれます。
 このように、住まいづくりはますます、その技術の進歩によって変化をしていくでしょう。しかし、自然そのものである人間の本質は何ら変わりません。「これからの住まいづくり」は、この原点を忘れずに考えていかなければなりません。
 (終わり)

  


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