〓固有の持ち味をいかに美味しくいただくか〓

百  果  是  真  味

詠み人知らず

農学博士 山 下 重 良

チェリモヤ

 人によって、果物の種類に好みはあるものの、果物にはそれぞれ固有の持ち味があり、真味をもっている。どの種類が美味しく、何がまずいとといえば、その果物にとって迷惑である。食べ頃を逸したり、食べる人の体調に原因があったりして、たまたま、真味に出会えなかったからではなかろうか。
 しかし、美味しい筈の果物も、気候や土壌など、栽培環境が合わなかったら上手な人が作っても、その持ち味を発揮できないし、実った果実も若採りしたら本来の真味はでない。
未熟の方が美味しいという果物はまずない。
 適地で適切に育てられた果物も、樹上で完熟してはじめて真味を発揮する。
また、ある種の果物は成熟して樹から収穫し、さらに追熟させてることによって、はじめて真味を発揮する種類もある。一樹に実った果実も、味や熟度は必ずしも同じではない。自然の影響を大きくうける果樹の特色でもある。だから、熟度をみながら順次収穫し、より均質な果物として消費地に届けるよう努め、また真味を損なわずに市場に送り出すことに腐心する。固有の持ち味を、より高めるために品種を選び、栽培を改良し、そして真味を生かす包装や出荷に果物作りは日夜、気を配っている。
 ところで、”百果是真味”これは果物だけをさす詩ではないように私には思える。人間はもとより、一木一草、万物万象にわたり持ち味を引き出し、そして真味を称えよと示唆する作者の心が、かみしめるほどに伝わってくる。



〓和歌山の柑橘とみかん〓

紀ノ国屋文左衛門船出地の碑

ーそのいわれとえにしー

 柑橘は、カンツ(Citrus)属植物の総称で、柑とは、温州みかんのような皮のむきやすい大きなみかんをさし、橘は小みかんの類をさす。柑橘類と云えばカンキツ属のほか、カラタチ属、キンカン属を含め、馴染みの深い温州みかんをはじめ、ポンカン、ユズ、オレンジ、ブンタン、グレープフルーツ、レモンなどが有名である。一般消費者は、みかんを柑橘類の愛称に使うことも少なくない。
 紀伊国屋文左衛門が紀州の港から嵐をついてみかん船を江戸送りし、富を築いた物語りは有名であるが、当時のみかんは紀州みかん(小みかん)であった。紀州みかんは、和歌山でもいまは殆ど栽培がないので、一般には知る人は少ないが、小粒ながら香りののある美味しいみかんである。
 和歌山での小みかん栽培は、天正二年(1,574)有田市糸我の伊藤孫右衛門が、肥後の国八代から苗木を持ち帰り植え付けたのが始まり(紀州蜜柑伝来記)である。
 当時、小みかんは、肥後では「八代みかん」や「河内みかん」、薩摩では「桜島みかん」と呼ばれていたが、紀州で小みかんが一大産業として発達したことから、「紀州みかん」が品種名となり、今でも種名はCitrus kinokuni 、英名もKinokuni で通用している。
 それでは、今の温州みかんは果たして、いつ、誰が、どこから導入したのであろうか。
寛永元年(1848)発行の岡村尚謙の桂園橘譜に、「温州橘。伝えて往昔豊太閣朝鮮陣の時、持ち帰りし種の由云へり云々」とあり、神田玄泉の著「本草或間」に、その名を「唐みかん、肥後みかん、大仲島」と記し、「その種、唐土より来たり、初めて肥後の大仲島に植える故にこの名あり」とある。大仲島は現在の鹿児島県長島である。中国には温州みかんに類似した品種はないから、唐から持ち帰ったある種のみかんの種から偶然に生まれたものと推定するほかない。カンキツ品種の権威、故田中長三郎博士はこうした史実をもとに、温州みかんの原産地は鹿児島県の長島であるとし、岡田康雄氏(著者の先輩でかつて和歌山県技師)が昭和11年、長島で推定樹齢300年の最古木を発見している。
 昔、我が国で広く読まれた中国の橘緑で、温州府で生産されるみかんをほめ称えていたので、いつの間にか温州の呼び名が美味なみかんの敬称に使われ、「温州みかん」となったのだろうという。ちなみに、温州みかんの英名はSatsuma mandarin 、つまり”薩摩みかん”というわけで、当をえた英名が付けられている。
 さて、みかん産地、和歌山への温州みかんの伝来はいつ頃であろうか。寛政年間(1789〜1801)に駿河国藤枝の田中城で、紀州から温州みかんの苗を取り寄せた記録があり、和歌山には古い歴史があることは確かである。しかし当時、温州みかんは種なしであることから李夫人、石女と呼ばれ、忌み嫌われたともいう。
 紀州柑橘緑(1882)によると、「今を距る70年前、温州蜜柑の種を植え漸次実を結ぶに至り・・・今後産出が増えること間違いなし」とあることから、1800年代初期にはかなり栽培が始まっていたことが裏付けられている。しかし、まとまった栽培が始まったのは明治初期以降で、明治35年には温州みかんはついに紀州みかんを凌いで1,587fに達し、和歌山は長らく全国一位の産額を誇ってきた。最近はカキ、ウメなどの増加で首位の座を譲ってはいるが、有田地方を中心に銘柄みかんとして名声を誇る”味一みかん”作りや、改良品種”紀の国温州”を生みだし、依然、果実王国の座を揺るぎなく守っている。

食文化の王様・果樹の技術者のホームページ(チェリモヤの紹介)

エッセイへ